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この業界、二徹できなければ失格だ。と、隣の席の山本は言う。
ウェブ制作業界にあって、二徹くらいでガタガタ言っていてはいけない。もちろん山本は二徹くらい全くへっちゃらだ。
しかし僕はといえば、一日徹夜をしただけで次の日はもう使いものにならない。そういう僕を捕まえて、山本はいつもこうした苦言を呈した。
とはいえそんな山本だって、三徹すると、しまいには何を言っているのかさえ分からなくなる。多分、四徹は経験が無いはずだった。
派遣社員として、今の会社に入って半年の僕も、以前ゲーム制作会社に派遣された時、同じような体験をしている。
ゲーム制作の現場もデバックの繰り返しに、納期前は誰も寝られない状態が続く。
制作と名の付く多くの業界が、最後は徹夜頼みになってしまう。
徹夜の能力は、一体どのようにして生まれるのだろうかと時々不思議に感じる。
「ガムだよガム。
ガム食べてれば
眠気は吹っ飛ぶ」
山本は言うが、僕には全く効果がなかった。
さて、僕と山本の向かいに、田代の席がある。この田代は山本の上を行くつわものだ。
彼の体躯は僕と山本を足したくらいあり、いつも歌舞伎揚げをバリバリ食べ、彼が指示に来ると僕らのモニターはその油で指紋だらけになる。
うつろな目をしながら夜になればなるほど良くしゃべり、三徹でダウンする山本をよそに田代はまるで潰れる気配が無く、むしろ食欲が増すようで、普段は手を伸ばさない菓子パン類をやたら食べ始める。
しかしさすがの彼も四徹以上は無理だ。
いつだったか歌舞伎揚げの袋に手を入れたまま眠ってしまった田代を見た事がある。
田代のさらに向こうの席に、マモルという痩せっぽちの若者が居るが、こいつは四徹をこなせる。
彼と瓜二つの痩せっぽちで眼鏡をかけた同僚の武部は、五徹いける。
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